第2131回例会
第2131回例会 (2018年4月16日)
ため小児科医院 院長 多米 豊 先生
『私の診た乳幼児の心身症』
心身症とは“ある病的な状態の発生と経過に、心理的な要素が色濃く関与する疾患”と、定義することが出来ます。
「病は気から」という諺がありますが、現代風に言うと「心理的なストレスが自律神経を介して、様々な臓器に悪い影響を及ぼす」という事で、我が国で本格的な研究が始まったのは、昭和34年、九州大学の池見酉次郎(いけみ ゆうじろう)先生が、精神身体医学会を立ち上げられて以来で、多くの成果が得られています。
当時、大人の3大心身症として、1)胃潰瘍、2)高血圧、3)喘息、が上げられていましたが、現在はその何れにも大変良く効く薬剤があるので、往時程の心理的要素は重要視されなくなった感はありますが、決して無視する事は出来ません。病気そのものでなく、病人全体を見るという考えです。
乳幼児の場合、心身症があるのか?と思われる方もいらっしゃるでしょうが、私はあると思っています。
*0才児。 昭和30年代、主流だった母乳栄養が廃れ、人工栄養が流行し始めた頃の話です。その頃は、決められた時間に決められた量を与える事が推奨されていました。それを強制すると、乳児は口を閉じてしまいます。強制するのを止めると飲むようになります。
*2~3才。 言葉が出始めた頃、突然吃音が出る事があります。子供のペースに合わせて、決して発音を直したりせずに対応していると無くなります。
*5~6才。 この時期は、子供はより自由に空間を活動することが出来、言葉もかなり自由になり、想像力が高められ、よりその子供本来の姿となり、可愛らしく、判断をする際により余裕を持ち、聡明になる時期です。
◆ チック症(特定の筋肉が不随意に動く状態)この頃に母親が余りに子供の行動に干渉し過ぎると起きてきます。(今では脳波に異常のある場合も見られます)口やかましく注意をしていると、子供は口で「いや」とは言えず、身体言語としてイヤとチックの症状を示すと考えています。
母親は教育熱心で、子供の面倒をよく見、よい子に育てようと自分の価値観に応じて、子供を育てているケースが殆どです。子供の方は、知的には普通かそれ以上の事が多く、感受性に富み、他人の気持ちを推し測るのが上手で、お利口ちゃんです。
治療としては母子関係の調整で、チックについては注意しない。否定的な態度をとらない。口やかましく行動を批判しない。と、それ迄とは違った接し方をしてもらいます。順調にゆくと、1ヶ月位で子供は親に反抗的な態度をとる様になり、それが減少してゆくにつれて、チックも2~6ヶ月で消失するのが見られます。
◆ 夜尿症。夜尿症を心身症とのみとらえるには問題があります。(今では内分泌ホルモンの投与で、かなり良い成果が得られている様です)夜尿症の子供や母親が、その為に理由の無い劣等感を持ったり、引っ込み思案になったり、必要以上に悩みや不安感を抱いているのを経験しているうちに、そして夜尿そのものがある時期になると消失してしまう事に気づいて以来、私は夜尿は病気というよりはひとつのクセ、それも必ず治るクセだと考える様になりました。
6才迄は、特に何もしません。治療に際しては薬を用いますが、何よりも大切なことは、夜尿はあっても必ず治るから心配しなくても良いと、母親と子供が思う様になってくれる事で、そうなったら私の治療は成功したと思っています。