第2303回

第2303回例会(2023年8月28日)

「脳卒中:最近の話題」
北海道大学脳神経外科 藤村 幹 様

 
脳卒中は、昭和時代には我が国における死亡原因第一位を占めていた重要な疾患です。現在は死亡原因の第4位となりましたが、要介護の原因としては上位を占めており、その予防と治療の理解は重要です。脳卒中は脳梗塞、脳出血、くも膜下出血の3病型からなり、最新の日本脳卒中データーバンクによりますと脳卒中の約70%以上は脳梗塞となっています。脳梗塞はさらに心原性脳塞栓症、アテローム血栓性脳梗塞、ラクナ梗塞の3つのタイプからなります。再発予防法(薬物療法)が3つのタイプで異なるため、脳梗塞の3病型を正確に診断することは重要です。アテローム血栓性脳梗塞ならびにラクナ梗塞の再発予防には抗血小板剤、心原性脳塞栓症の再発予防には抗凝固剤が使用されます。
脳卒中の予防には血圧管理、禁煙、塩分の過剰な摂取を避けること、適度な運動を行うことなどは重要です。心房細動(不整脈)のある患者さんにおいては脳梗塞を発症していなくても例えば高齢者の場合は抗凝固剤の投与を行うことが勧められます(一次予防)。脳卒中は予防することが最も重要であり生活習慣病の管理、自宅血圧の測定などを日ごろから行うことが重要です。
脳卒中を発症してしまった場合は、1分でも早く適切な治療を行うことが重要です。顔面も含めた片半身の麻痺・しびれ、言語障害、視野異常などの症状が突然起こる場合は脳卒中の発症が疑われ、一刻も早い医療機関の受診(救急要請)が望まれます。脳梗塞の場合は4.5時間以内の血栓溶解療法(組織プラスミノーゲンアクティベーター)の静脈内投与、そして6時間以内の機械的血栓回収療法(カテーテル治療)が推奨されます。これらの治療を時間内に受けることにより患者さんの慢性期の日常生活の自立度が有意に改善することが証明されています。また最近は6時間を過ぎてからでも様々な高感度画像検査(MRI, 脳灌流画像など)により病態を評価した上で、機械的血栓回収療法を行うことで治療成績のさらなる向上がもたらされています。いわゆる「機械的血栓回収療法の適応拡大」により脳梗塞に対する急性期医療の治療成績は飛躍的に向上しています。広大な北海道においては情報通信技術(ICT)を用いたスマートフォンを用いた画像共有システムなどを駆使することにより早期診断だけでなく、患者さんの適切な搬送や医師の派遣などにより、より多くの患者さんが適切な脳卒中急性期医療を受けることができるような環境を整備しています。

(原文のまま掲載)