第2344回例会
第2344回例会(2024年10月7日)
「保育園運営の現状と今後の課題」
社会福祉法人つばめ福祉会 理事長 栗原 清昭 会員
社会福祉法人の理事長に就任してから15年になります。白石区内で定員60名と定員90名の私立認可保育園2園を運営しております。
1.私立保育園運営の実際
保育園は保護者の仕事や病気、介護などの理由で家庭での保育ができないときに利用できます。0歳~就学前の児童が対象で保護者の仕事などの時間帯に対応するため、1日11時間以上開園しています。一方、幼稚園は満3歳から就学前の児童が対象で1日の時間帯は朝から昼過ぎまでの4時間程度、保護者の仕事や介護などの理由がなくても入園できます。
保育園に入園できるか否かの判定は市町村がおこない、施設利用希望者は「保育の必要あり」と認められなければなりません。入園は利用者と市町村の間で契約をおこない、保育園は市町村から委託を受けて利用者に保育を提供します。保育園運営にかかる費用の8割は公費で賄われるため、利用者と保育園が直接契約することはできません。
市町村から保育園への委託費は国が定めた公定価格(子どもの年齢によって異なる)に児童数を乗じた金額となります。公定価格は施設規模によって変動しますが、0歳児1人あたり210万円、1~2歳児129万円、3歳児62万円、4歳児以上53万円ほどです。保育園にとっては子どもが増えれば収入増となりますが、子どもが減れば収入減となります。
保育園の運営に関する基準は法令(厚生労働省令)によって定められており、例として保育士の配置基準があります。
<保育士の配置基準>
0歳児3人に対し・・・・・保育士1人
1~2歳児6人に対し・・・保育士1人
3歳児20人に対し・・・・保育士1人
4歳児以上30人に対し・・保育士1人
*因みにドイツでの保育士配置基準は2倍以上。日本では保育士1人あたりの負担が大きい。
2.近年の待機児童対策
10年ほど前、保育が必要との認定を受けても入園できない、いわゆる「待機児童」が社会問題となりました。子育て世代の女性就業率が上昇し保育園の利用者が激増したことが原因です。各自治体は国からの補助を受けて保育園の新設、幼稚園を認定こども園に組織替えすることによって保育を可能とするなどの施策を実施しました。結果として待機児童問題はほぼ解決に向かっております。
3.急激な少子化の進行
我が国の少子化問題は今後の保育園運営に大きく影響するものです。国内の0~4歳児の人口は10年間で25%の減少、札幌市にあっては実に33%の減少となっております。札幌市内の多くの保育園で定員割れが生じており、これに伴う減収から令和4年度現在47%の施設が赤字経営に陥っております。人口動態からしても今後ますます悪化の一途をたどることが予想されます。
厚生労働省は人口減少地域などにおいて既存の保育施設を縮小するなどの施策を今になって打ち出しました。つい数年前まで待機児童解消のため施設拡充策をとってきたことが裏目に出たことは明らかです。失政の責任を私立保育園に転嫁していると言っても過言ではありません。施設を縮小するということは、苦労して確保した保育士を解雇せざるを得ないのと同意です。雇用の不安定な職場に就職したいと誰が考えるでしょうか。保育士の配置基準を(例えばドイツのように)見直し、より手厚い保育にシフトするべきと考えます。
また、私立である以上経営が成り立たなければ閉園が相次ぐことが予想されます。特に地方では子育て支援の受け皿がなくなり、子育て世代の都市部への一極集中がすすむことになります。
少子化問題は保育園の経営云々以上に我が国の将来に関わる大問題です。安心して子どもを産み育てることができる社会を築くことは現代を生きる私たちに課せられた責務であり、そのためには大規模な予算措置が必要です。
未来への投資を怠ってはなりません。