第2313回
第2313回例会(2023年12月4日)
「ポール・ハリスの生い立ちとロータリークラブの誕生」
クラブ情報委員会ロータリー情報担当
中園 直樹 副委員長
1868年(明治元年)4月19日 Wisconsin州Racineラシーンに誕生した。
父方:スコットランド系移民、母方:アイルランド系移民、祖父は弁護士でラシーンの市長であった。
時代背景:1865年リンカーン大統領暗殺、南北戦争終結。米国の北部で産業革命と近代資本主義が展開し始めた時期。
3歳時に父の雑貨商の事業失敗。父母が離婚し、兄と共に父方の祖父母の元のVermont州Wallingfordへ預けられる。新生米国らしい雰囲気のNew Englandの地で多感な少年時代を過ごす。茶目っ気に溢れた、好奇心いっぱいの腕白小僧だったらしく2度の放校処分。1885年Vermont大学入学するも2年次に退学処分(後に名誉回復される)
1887年New Jersey州Princeton大学入学する。1890年祖母の勧めで弁護士をこころざし、Iowa大学法学部に入学し、卒業。5年間の放浪の旅(five years of folly)に出て、全米各州各都市を周る。弁護士は「色々な社会を見て、色々な人間に出会うこと」で依頼人の「生活や苦しみや悩み」、訴訟の双方の人の葛藤や模様を知る必要があると考えての決断。
5年間に経験した職業は本当に種々雑多で、その一部だけでも以下の通り。
新聞記者、果樹園の手伝い、箱詰缶詰工場の人夫、教師、劇場の俳優、ボーイ、ホテルの夜勤、セールスマン、農場人夫、牛の輸送船の人夫として英国にも。
それに大理石商の親友の知己を得て、米国外のキューバ、バハマ、英国、ドイツ、ベルギー、イタリアなどの欧州各国の主要都市も周る。
帰国後、大都市の生活経験としてニューヨークでも生活した後に1896年 28歳でシカゴに法律事務所を開業。当時のシカゴはゴールド・ラッシュ(1848年カリフォルニア金鉱発見されゴールド・ラッシュ)旋風で雑然した混迷の地で、倫理は荒廃していたようだが、未知の活力に溢れ、将来の発展が期待される(?)地と時代背景であったようだが、人々はみな孤独で、本当の心の友を求めていた。倫理と道徳の必要性があった (因みにシカゴのマフィアのアル・カポネの禁酒法時代は1920年です)
倫理:人間の相互作用から導き出された一連のルール
道徳:宗教に起因し、宗教によって誘導されるもので、道徳的行動とは人にある行動様式を取らせる神聖な、より高いパワーある信念を反映したものと考えた
友情を心の核として、色々な職業の人を集めてクラブを作ろうと、1900年から考えはじめ1年以上の準備期間を経て、試行錯誤の末、1905年(明治38年)2月23日夜、シカゴの Unityビル7階711室の鉱山技師のガスターバス・ローアGustervus Loehnの事務所にて4人(①石炭商シルベスター・シールSilvester Sehiel②鉱山技師ガスターバス・ローア③洋服商ハイラム・ショーレHiram Shoreyと④ポール・ハリス)で第1回の会合を開催した(これが最初のロータリー・クラブとして発足した)
初代会長はシールで、(ポール・ハリスは1907年に3代目会長)因みに創立当初のシカゴロータリークラブのスローガンは「“正直(誠実)、道徳、禁酒”」だったのは興味深く、また時代を反映している。
その後、Scotland Edinburgh出身のジーンJean Thompsonと結婚。子宝には恵まれなかったが、ロータリー・クラブがその子供だったと思われる。
▼清教徒的考えがポール・ハリスとロータリーへ与えた影響
ポール・ハリスが幼少時期、少年時代を過ごしたNew Englandの地は、清教徒がメイフラワー号(大西洋を渡り1620年11月11日Cape Godに到着)で故国イングランドから逃れて移り住んだ処である(ハーバード大学やボストン交響団などを創った古き良きアメリカの田園都市地域として知られている)。清教徒はスコットランドを中心に、聖書の原点に帰ることを徹底する改革を目指してイギリス国教会と対立したプロテスタントのカルヴァン派で、新天地を目指し、船上で信仰の自由を求めた人びとが自治の契約を行ったことで有名。
ポール・ハリスの考え方や人柄や生き方は清教徒であった祖父母からその影響を強く受けて育ったと思われる。
清教徒らのその考えや生き方の基盤は
「高潔と名誉」、「自己犠牲と献身」、「真実と誠実」、「質朴」、「勤勉」、「寡黙」、「友情と寛容」が美徳とされる。
ポール・ハリスの行動の実践は
信仰と社会への献身、真実に基づく誠実な生活態度、友情と他人への愛情や思いやりに溢れた人間関係を大事にした。そして宗教や政治の面での寛容さを貴ぶことが最も重要とした。そして、自らが種々雑多な職業・仕事を経験したことで、仕事・職業(vocation)を大切にしたのがポール・ハリスで、ロータリーが宗教などを背景としたボランティア団体と趣を異にする所以である。彼は弁護士として仕事はどこまでも誠実で、依頼人から絶大な信頼を勝ち取る様に努め、常に夢や強い意志と熱意を持って当たり、謙虚であったとされる。