第2096回例会

第2096回例会 (2017年5月15日)


「望まれる国際支援とは」
RI第2510地区パストガバナー
小林 博 会員

 発展途上国への国際支援はロータリアンの間では「国際奉仕」といわれています。
 最も簡単なのはお金を贈る、ものを贈るということです。贈りものを受けた人達は喜ぶでしょう。札幌北ロータリーからスリランカにベッドを送って欲しいという要請があり、既に1,000台をスリランカ各地の病院に贈ったことがありました。日本では病院の増改築の折に不要になった、産業廃棄物にされる予定のベッドです。
 スリランカは常夏の国ですから病院の建物は割と簡単に出来るのですが、ベッドまではなかなか手が届きません。西暦2000年に札幌北ロータリーから数名の方々が現地を初訪問した折に「中古のベッドをいただけないか」という要望を受けたのでした。これに対し、いまは亡き当クラブの大田すみ子会員、現ガバナー補佐の竹原巖会員らが中心となって現地の要望に適ったものを地区内の数か所の病院から集め、必要なものは修繕も施し、凡そ1,000台のベッドをコロンボの港に送り届ける作業をすすめたのです。そのために要した労力と費用は決して少ないものではありませんでした。このような当クラブ会員の国際奉仕は2510地区の誇りにしていい快挙だったと考えております。
 その後、同国からは「内視鏡をいただけないか。中古でいい」という要望が続きました。これも何とか札幌の(株)ムトウ器械店のご厚意をいただき、オリンパスの最新式の中古品を竹原会員、出村会員はじめ数名でお届けに行きました。操作に不都合があってはいけないとの心配りから、ムトウの技術の方にも同行をお願い致しました。勿論、これも大変喜ばれました。
 ところがその後、間もなく私達に届いたのは「がん診断用のCTの器械をいただけないものか。中古でよいから」との要望。正直言って驚きました。いくら安くても恐らく中古品で一千万円以上かかるような高価なものです。そこで、北クラブとしてはいろいろ討論を重ねました。価格の問題もさることながら、いつまでもこうやって、ものを贈るということだけでよいのかということです。ものを貰った先方は当然喜ぶでしょうが、このような状態を際限なく続けることが果たしてどんな意味があるのか、「本当の国際奉仕はどういうことなのか」を考えさせられたのであります。
 翻って私達の国の昔のことを思い出してみました。
 電話もテレビも何もなかった時代の人達は果たして不幸せであったでしょうか?そうではなかったと思います。ものがあれば幸せそうに見えますが、スマホがなくても人間の幸せを作っていくことは出来ます。それでは真に望まれる国際奉仕はどういうものであるべきかを考えさせられたのです。


左から札幌北RCの出村知佳子さん、ビジェクマラン博士(キャンディRC)、米山道男さん、小林博、佐藤秀雄さん(千歳RC・2003-2004ガバナー)、長太義雄さん、(内視鏡)、竹原巖さん、ダヤシリ・ワルナクラスーリヤさん(コロンボRC)、コロンボRC(2名)、佐藤秀雄夫人、節子・ワルナクラスーリヤさん(右端)坂井治さん(千歳セントラルRC)撮影

 話は変わりますが、当クラブの出村知佳子会長その他の方々が中心となっていま進めているタイのノンカイ地区における水の供給事業は本当に素晴らしい事業であると思います。貧困は食べ物がないからではなくて、安心して飲める飲み水がないことから始まります。その安心、安全の水を提供することは、その地域の住民の日常生活にどれだけ大きな貢献をもたらすかはいうまでもありません。出村会長らが率先して何度も現地に赴き、水の供給状態を調べ、水タンクを提供してくまなく安全な水の供給に成功し、現在に至っているわけであります。


クリーンウォーター事業を実施した学校にて、奨学金事業も実施。記念撮影(安孫子ガバナー年度)
 

 大事なことは物品を与えるだけではなくて、こちらから直接出かけて行って現地の人達と一緒になって汗を流し、価値あるものを作りあげる作業を進めていること。これは彼らにとっても非常に大きなインパクトとなっていると考えます。大浦隆司会員の現地での料理作り教室もそういった狙いの1つでありましょう。

 さて「望まれる国際奉仕」とはどういうことでしょうか。いつまでもただ「ものを贈るだけ」ではありません。こんなことを続けていけば、現地の人達の支援依存体質、つまり「貰い慣れの習慣」を助長したり、彼らの自発的なやる気をスポイルしてしまうことも十分に考えられるからです。
 「望まれる国際支援」とは彼らと一体となり同じ目標に向かって作業をすること、そしてもっとも理想的なことは「自分達の国づくりは自分自身の手でなされなければならない」ことを知ってもらうこと、さらに「自らの手で何とかしようというやる気を起こさせる」ことではないでしょうか。これは大変難しいことかも知れませんが、でもその為に必要なお手伝いをすることに何等やぶさかではありません。理想主義者といわれるかも知れませんが、私達ロータリアンのこれまでの体験から私はそう結論づけたいと思います。

子どもが親を変える
―札幌北RCのスリランカ支援事業

 「子どもが親を変える」なんてあまり耳にしない言葉ですね。通常は「親が子どもを変える」ではないでしょうか。ところが、子どもが親を変えることも本当にあるのです。その実例の一つをスリランカ国の学校教育の現場で体験しましたので簡単にご報告します。なおこの報告の内容は札幌北ロータリークラブがいま同国で進めている学校教育・健康教育の始まりの頃の話でもあります。
 スリランカでは「噛みたばこ」の習慣によって口腔がんが多発します。がんのなかで一番多いのは口の中から出てくるいろいろながんなのです。このがんは非常にミゼラブルなものです。このがんを予防するためには噛みたばこの習慣をやめればいいだけのことなのですが、これがなかなか出来ません。噛みたばこはスリランカの人達の生活に深く入り込み、その習慣はもう2000年来の宗教の域にも達しているという人もいるくらいです。
 この噛みたばこの習慣をやめさせようということでスリランカの政府はもちろんのこと、私達もボランティアとしていろいろと手を尽くしました。でも、なかなか歯ごたえがありません。あるとき現地の一人のドクターが私に「ドクターコバヤシ、日本の喫煙率もなかなか下がらないではないですか。同じようにスリランカの噛みたばこの習慣もなくすることは難しいことなのです」。私には強烈な皮肉にもとれました。
 私は喫煙率が下がらない日本からわざわざスリランカまで来て「噛みたばこはよくないからやめなさい」と他人にお節介する自分の厚かましさを感じました。現地にはそれぞれの国の文化、習慣があるわけですね。それを無理矢理直そうという「大義名分」が余りにも無茶であることに気付いたのです。
 そこで、2、3年続けたスリランカ訪問の目的は終わったと考えました。でもこのまま終わるのも残念だなと思い悩んでいるとき、「そうだ、この私達の活動をスリランカの子ども達に向けて行ったらどうなるだろうか」と気付きました。
 子ども達は素直ですし、私どもの意図することに目を輝かして聞いてくれるかも知れないと期待したのです。JICAの協力もいただき、南部州に4つの小中学校を選別しました。首都コロンボから6~7時間車に揺られて、着いた頃はヘトヘトになるくらいの僻地の学校でした。はじめ学校に行ったときは応対に出てくれた先生方も「何を貰えるのですか?」といったような受け止め方でした。私達は援助品やお金などものを持ってくるのではなく、学校での健康教育の大切さを皆さんに知って貰いたい、それだけのことを目的に来るのですと繰り返し懸命に説明致しました。
 といっても現地語のシンハリ語は理解できませんので、現地のある財団のスタッフの協力を得て、英語を介して、そのスタッフから私どもの意図することを説明してもらいました。子ども達も先生達も次第にわかってくれるようになりました。
 私達はまず健康のために何をしたらよいか、病気とはどういうものなのか、学校をよくするためにはどうしたらよいか、みんなでよく討論をしてくれるようにお願いしました。この国の学校ではそのように話し合う(ディスカッションする)習慣はいままでなかったので、その習慣を軌道に乗せるために私達のスタッフも大変苦労してくれました。
次に討論したことを活字にして、討論の骨子を校内のみんなに知ってもらうことにしました。印刷機がないから贈って欲しいという要望に対して、必要なものを日本から持ち込みました。現地語で書かれたニュースレターを2か月に1度のペースで作り、校内に配布するようになりました。子ども達はそれを自宅にも持ち帰ったようです。


子ども達と言葉は通じなくとも心は通ずる 

 特別の企画として「何に使ってもよいというお金」(Incentive Fund、激励金といいましょうか)として1校あたり年間5万ルピアを渡すことにしました。日本円にして凡そ37,000円です。彼らにとっては大金です。学校でそれぞれ何に使うかということで喧々赫々の議論が盛り上がりました。お金はすべて極めて有効に使われたことがその報告書からわかりました。詳細は省略しますが、こんなこともあって子ども達はますますいきいきと前向きに、また自主的に活動するようになったのです。
 学校の雰囲気も変わってきました。欠席の多かった子ども達もみんな出席するようになりました。子ども達の変わったのを見て親たちも学校の様子を見に来るようになりました。そのうち、嬉しいことに喫煙率が4つの学校の地域住民の間で明らかに減ってきたことがわかりました。お酒の消費量も目立って減ってきました。学校の先生方も親達も地域住民たちもみんなが「変わってきた」のです。つまり子ども達が気付かないうちに自ら率先してその行動で示したお陰で、いつのまにか「子どもが親を変える」モデルを作っていたのであります。
 私達の教育方針は大人が子どもに指図をするような態度は絶対にとらないということです。「タバコを止めるように親に言いなさい」とは決していいません。子どもの隠れた天性に火を点すような教え方を工夫することから始まります。子どもが自分の意志で親に訴えるのを待つのです。
 以上のような教育方針を4校に留まらず、1万校に近いスリランカ全国の学校に広げることが出来ないかと考え、同国の厚生省、教育省の大臣にもお会いし何度か交渉しました。でも遂に諦めました。市民レベルの活動がよその国の行政に入り込む難しさというか限界があることに気付いたからです。
 そこで全国的に広がらなくてもモデル校だけでもよくなっていけば、それがきっかけになって次第に他の地域の人達にも理解され、その波が全国的に広がっていくのではないかと考え、現在に至っております。
 教育というのは目立たないものですが、将来大きな効果を期待できるものと思います。活動を継続することがいかに大切なことかということも十分心得ています。「継続は力です」。
 このような考えからいま札幌北ロータリークラブの有志が現地にも行き、試行錯誤を重ねながら子ども達の健康教育、学校教育に継続して努力して下さっておられます。この種子がいつか花咲くことを心より祈っております。


2015年 H/D. A. Rajapaksha Maha Viduhala校での子どもたちとの交流 学習支援ツールを寄贈