第2073回例会

第2073回例会 (2016年10月31日)


経済と地域社会の発展月間に因んで
「途上国の貧困とマイクロクレジット」
ロータリー財団委員会 中園直樹 委員長

私が神戸大学の教授だった時にユヌス教授に直接教えて戴いたマイクロファイナンスについて、ロータリーの活動との関連で解説した。
 マイクロファインナスとは2006年ノーベル平和賞受賞者グラミン銀行のユヌス教授が提唱された、途上国の多くの人が陥っている貧困から抜け出る術の一つでもある。
 マイクロファイナンスはバングラデェッシュでは貧困層を高利貸しから守るものとして存在し、グラミン銀行から融資されたその小額の資金で婦女子が社会貢献を目的とするソーシャルビジネスを起こし、働く(「傍(はた)」を「楽」にする)のを支援する仕組である。貧困層にあるけど意欲のある婦女子は、①経済的自立のために、②自己実現のため(自己能力の向上のため)に、③社会参加のために仕事をする(職業を持つ)。それは、ジェフリー・サックスが指摘するように、「最も貧しい人びとを開発の梯子の一番下の段に足をかけられるようにすることである。開発の梯子が高いところにあって手が届かなければ、貧しい人々はずっとその下にいるしかない。足場をしっかりしたものにするための最小限の資金さえないからだ。従って、1番下の段までは手を貸し、押しあげてやる必要がある。」
 これを、バングラデェッシュで実践した活動がマイクロファイナンスで、ユヌス教授の狙いは、私的利益の最大化ではなく、人権問題(婦女子、貧困層、障がい者)解決であり、民主主義(自立と参加)の確立であり、これにより地域の持続的可能な発展、成長へ繋がるとし、国際ロータリーも重視している。
 西洋社会にありがちな(ロータリーも反省する必要がある?)、「施し」や「慈善」は受ける側に、意欲(生活の向上、疾病を治す、自己研鑽)や努力を失いがちにさせ、支援を受ける人々から尊厳や自尊心を奪い、自らが収入を得て、社会に出て自活しようとする目標や、家族や地域社会のためにという目標を無くすることが少なくないと、ユヌス教授は厳しく指摘された。
 グラミン銀行の融資先は、担保を持たない貧困層を優先し、BOP(Base of the Economic Pyramid)層の人口の底辺25%をターゲットとして(特に貧しい女性に焦点)おり、結果として、借り手の97%が女性(ここがポイントと成功の鍵!)で、5人1組のグループローンで、連帯責任制(連帯保証制ではない)、無担保、無保証(返済義務は本人のみ)で、融資を申し込みたい人は5人組を作り、順番に融資を得られる仕組みである。1人が返済を終えないと次の人は借り入れが出来ない。5人の仲間を裏切れない借り手の気持が、ピア・プレシャー(仲間同士の良い意味の圧力)となりグラミン銀行にとって目に見えない担保になっており、実に97%以上の返済率とのことである。
 更に、グラミン銀行は借り手の貧困からの脱出を目的としているので、その指標として借り手に、①収入、自立の道、②傷病からの回復、③教育改革(子弟の就学率、成人の識字率)などを設定しているとのことで、経済学者であるユヌス教授ならではの仕組みで、ノーベル平和賞の所以である。
 我々ロータリーも奉仕活動を行う際には、到達目標の指標を設定すべきである。
 ユヌス教授とは2009年3月に2日間神戸でご一緒させて戴いたが、お人柄はとても温厚で、凄いインテリで、地域社会の発展のためのアイディアも豊富であった。医療と栄養改善の保健にもご関心が高く、一村一品のヨーグルト、貧困層のための眼科の病院のプランなど意見を交換したのが懐かしい。